動詞の自他、すなわち自動詞と他動詞の違いといえば若かりし学生時代、英語学習で散々悩まされた嫌な思い出しかありませんが日本語でも自動詞と他動詞の区別は重要で日本語教育能力検定試験では頻繁に出題されています。
目次
- 自動詞と他動詞の違い
- 自動詞と他動詞の見分け方
- 対となる自動詞と他動詞の一覧
- 自他同形の動詞一覧
- 他動詞文と使役文の違い
- 自動詞と他動詞の違い・使い分けを学ぶのにおすすめのテキスト
- 2016日本語教育能力検定試験Ⅰ問題1(6)【動詞の自他】の解説
- 動詞の自他は試験に出ます
自動詞と他動詞の違い
自動詞と他動詞の違いは以下のとおりです。
日本語の自動詞の意味
自動詞とは読んで字のごとく、自らの動きを表す詞(ことば)です。動作・作用が他には及びません。自らの動きだけで完結します。
自動詞の例
「猫が走る」「猫が回る」
日本語の他動詞の意味
他動詞とは読んで字のごとく、動作が他に及ぶ詞です。動作の対象である目的語が必要です。
他動詞の例
「ツナを食べる」「窓の外の鳥を見る」
自動詞と他動詞の見分け方
〈を+動詞〉は他動詞
他動詞は目的語が必要なので、動詞の前に格助詞「を」がつきます。
他動詞の例
「飼い主を噛む」「 飼い主は顔をゆがめる」
ただし、例外があります。
練習問題:「橋を渡る」は自動詞or他動詞?
答えは自動詞です。
〈〜を+動詞〉の形は基本的に他動詞ですが、「〜」に場所が入るときは自動詞になります。動作が「〜(場所)」に対して影響を及ぼしているわけではないからです。「〜(場所)」は動作の地点にすぎません。対象ではありません。
他動詞の一覧
「ツナを食べる」→食べる対象はツナ→「食べる」は他動詞
「鳥を見る」→見る対象は鳥→「見る」は他動詞
自動詞の一覧
「廊下を走る」→廊下は走る対象ではなく、走る地点に過ぎない→「走る」は自動詞
「友達と会う」→「友達を会う」とはいえないので「会う」は自動詞。他者がいなければ会えないのだから他動詞と思いがちなので要注意。「見る」は他動詞なのに「会う」は自動詞。ややこしいです。同じく「彼とデートする」の「デートする」も自動詞。
対となる自動詞と他動詞の一覧
日本語の自動詞と他動詞は対になっているものが多いです。
1 自動詞は-iru、他動詞は-osu
自動詞 他動詞
起きる 起こす
過ぎる 過ごす
落ちる 落とす
2 自動詞が-aru、他動詞が-eru
自動詞 他動詞
上がる 上げる
集まる 集める
静まる 静める
3 自動詞が-reru、他動詞が-su
自動詞 他動詞
倒れる 倒す
汚れる 汚す
壊れる 壊す
他にも様々なパターンがあります。
自他同形の動詞一覧
自動詞と他動詞で同じ形の動詞もあります。
同じ名詞をとる自他同形の動詞の例
閉じる
(自動詞)ドアが閉じる (他動詞)ドアを閉じる
触れる
(自動詞)手が触れる (他動詞)手を触れる
異なる名詞をとる自他同形の動詞の例
吹く
(自動詞)風が吹く (他動詞)笛を吹く
働く
(自動詞)知恵が働く (他動詞)盗みを働く
自他同形の動詞の参考文献
自他が同じ形の動詞については、森田良行著『自他両用動詞から自他同形動詞』を参考にしました。森田良行著『自他両用動詞から自他同形動詞』には著者が独自に選定した自他同形の動詞が101語も載っています。
他動詞文と使役文の違い
他動詞と似たものに使役があります。語尾に「せる/させる」をつけて、他のものに何か動作をさせる意を表します。
使役の例
自動詞の使役の例
立つ→立たせる
入る→入らせる
他動詞の使役の例
立てる→立てさせる
入れる→入れさせる
他動詞文と自動詞使役文の使い分け
他動詞と自動詞の使役形は対象を動かすという点で意味が似ているので使い分けが問題になります。例文を使って具体的に検討してみます。
先生(A)が鉛筆(B)を立てる○ 先生が鉛筆を立たせる☓
先生(A)が生徒(B)を立てる☓ 先生が生徒を立たせる○
違いが見えてきました。
他動詞の場合は目的語(B)に対し主語(A)が直接的な影響を及ぼしていますが、自動詞使役文は命じているだけで間接的な影響しかありません。あるいは、他動詞の場合はBの意思がありませんが、自動詞使役文の場合はBの意思が介在しています、ともいえます。
詳しくは、『中上級を教える人のための日本語ハンドブック』(下記参照)の138ページに使役文と他動詞文の用法の違いに関する説明がありますので、ご一読おすすめします。
自動詞と他動詞の違い・使い分けを学ぶのにおすすめのテキスト

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『中上級を教える人のための日本語文法ハンドブック』では、
1,自動詞と他動詞の使い分け
2,再帰的な他動詞文など
3,自動詞文と類似した意味を持つ表現
4,複合動詞と動詞の自他
という4項目にもとづいて、自動詞と他動詞の説明をしています。分量はなんと15ページ! 自動詞と他動詞の使い分けは日本語教師にとって重要ということですね。他のセクションですが使役文と他動詞の文の用法の違いについても詳しい説明があります。『中上級を教える人のための日本語文法ハンドブック』は日本語教師必携の本として有名ですが、日本語教育能力検定試験の対策にも役立ちますのでおすすめです。
2016日本語教育能力検定試験Ⅰ問題1(6)【動詞の自他】の解説
以上の知識をもとに平成28年度日本語教育能力検定試験Ⅰの問題1(6)【動詞の自他】を検討します。
まず、自動詞・他動詞を判別するため、各選択肢の動詞の前に格助詞「を」をつけてみます。
1,を走る
2,を渡る
3,を通る
4,を回る
5,を移る
「を」がついたので、他動詞と思いたいところですが、「を」の前の名詞に「場所」が入る場合は自動詞という例外がありました。
1,廊下を走る
2,橋を渡る
3,道路を通る
4,家の周りを回る
5,会社を移る
いずれの選択肢も「を」の前が場所だったので自動詞です。問題文は【動詞の自他】という観点から他と性質の異なるもんを選べと言っているので、他動詞も検討してみます。
1,走る →走らせる/走らす
2,渡る→渡す
3,通る→通す
4,回る→回す
5,移る→移す
選択肢2から5は、自動詞→他動詞の際に、語尾の「る」が「す」になっていますが、1は「る」が「らせる/らす」になっています。 よって、1が正解です。 と私は考えましたが、『中上級を教える人のための日本語文法ハンドブック』138ページによると、「走る」は対応する他動詞を持たない、とのことです。広辞苑には『走らせる』は他動詞として掲載されていましたが、『走る』との対応関係はないということなのでしょうか。『走らせる』は「先生は遅れてきた生徒(B)を走らせた」のように、Bの意思が介在している自動詞使役文のような意味がある一方で、「私はペン(B)を走らせた」のようにBの意思が介在しない他動詞のような意味もあります。面白いです。いずれにせよ、正解は1です。
動詞の自他は試験に出ます
自動詞と他動詞の違いに関する問題は以下のとおり毎年のように出題されていますので、過去の問題も要チェックです。
日本語教育能力検定試験で出題された自動詞と他動詞の違いに関する問題一覧
日本語を母語としない日本語学習者にとって動詞の自他の違いは難しいのですから日本語教師は動詞の自他についてきっちり勉強しておきなさいというJEESからのメッセージでしょうか。日本人にとっても難しいぞ、勘弁してくれい!

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